大陸北部を占めるアケルス王国。
 南部を領し、千五百年の歴史を誇るカストルーテ王国。
 表面上は穏和に、その実、かなり打算的に友好の刃を交わした両国は、点在する古代遺跡を巡って熾烈な争いを繰り返していた。
 王は国財で数多の冒険者を雇う。それは、かつての魔導文明の名残と思われる遺跡を探らせて、その技術や遺産を国力増強の術として取り入れようと考えてのことだった。
 両国は互いに争ってはいたが、共通の思惑もあった。
 大陸全土を支配するオーリアン教会をなんとしても打ち倒したいのだ。
『神の宝冠』と称される教会本部には、国王よりも権力を持った大司教がいる。
 四百四十四年前。
 オーリアンはそれまで崇拝されていた神々を武力で制し、支配下に置いた。
 殊に厚い信仰を受けていた神は悪神として成敗され、消滅を余儀なくされたものも存在する。
 かつての信仰は旧教として淘汰され、オーリアン教会が台頭した。
 グレシャス、ハーディスは旧教で夫婦神として信仰されていた神である。
 暁の女神・グレシャスは大地母神であり、闇の支配者・ハーディスは海神であったのだ。
 グレシャスに心奪われたオーリアンが彼女を得るために、ハーディスを闇に封じたのが事の始まり。
 寂しさに耐えかねた彼女はオーリアンの手を拒み続け、やがて自ら死を選んだと言われている。
 教会の創設がいかにドラマティックであろうと、現実に生きる国王たちには面白いものではない。
 遺跡同様に各地に点在するオーリアン教会には、その思想を広める傍らで情報や技術を収集し、本部に伝える役目があった。
 それらは全て本部で統括され、必要に応じて国あるいは個人へと売り渡される。
 大陸全土の文化・経済を動かしているのはオーリアン教会であると言っても過言ではなかった。
 信徒でなければ、その『恩恵』に与ることもできない。
 これが大司教が国王を上回るカラクリであった。
 冒険者がキャリアのプリーストを雇うにも莫大な金がかかり、ここにも国財が教会へと流れる仕組みができあがっていた。
 アケルス国王・ヨエル8世は頭を抱えて悩む。
 カストルーテ国王・クローシュは実弟を教会に送り込み、問題を解決しようと目論んだが、結局は失敗に終わった。
 進退窮まったカストルーテは教会打倒から今しばし手を退くこととなる。 
 アケルスも単独ではどうにもならず、教会の専制をゆるしてしまう。
 ままならぬ現状に憤り、大司教の早逝を願う彼らを、ハーディスの月が不気味に照らした。
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