「本当に? 本当に仲間になってくれるの?」
 早朝の空気と適度なざわめきのなか、その声はやけに響いた。
 朝食を摂っていた冒険者たちの目が一斉に集まり、そしてすぐに逸らされた。
 ヴァリスの喜びようは尋常ではなかった。
 求め続けたプリースト。しかもキャリアだ。
 喜ばないほうがどうかしている、とはヴァリスの言である。
 にこにこと微笑みながら頷くルーシェの手をとってブンブンと振り回し、「ありがとう」を連発する姿は滑稽だった。
 彼と仲間であることを少しだけ後悔するエナン。
 ちょっと塩味が濃いな、と思いながら、一心不乱にスープをすする。
 眠れなかったのか、ザスは欠伸を何度もかみ殺していた。
 酒場兼用の食堂にはスパイスの香りが漂い、卵やハムの焼ける音が食欲を刺激する。各テーブルには果物が山と盛られ、鮮やかな色が目を楽しませてくれる。
 ようやく落ち着いたヴァリスはパンをちぎって口に放り込んだ。
 焼きたての香ばしい食感が広がり、それだけで幸せになれる。
「じゃあ、せっかくだし。今日はあの森のもう少し奥まで行ってみましょうよ」
「その前にアイテムを鑑定してもらおうぜ。金も作っておかないとな」
「わかったわ。一時間後に出発ってことでいいかしら?」
「ああ」
 ザスとヴァリスが席を離れる。主導権はいつも彼らが握っているようだ。
 緑髪のハンターは特に異を唱えることもなく、もくもくと食事に専念している。
「エナンさんは、準備はよろしいのですか?」
 ヨーグルトをすくう匙をとめて、ルーシェはおっとりと小首を傾げた。
「あいつらに任せているからいい。それから、俺のことは呼び捨てにしてくれ」 
「そうですか?」 
「慣れてるだろ? あんたの身分なら抵抗なんかないはずだ」 
「確かに抵抗はありませんけど。そんなに偉そうにしているつもりもないですよ」
 誰も知らないと思ってたのにな、と呟きながら、ルーシェは額のサークレットを指でなぞった。
 大陸南部を占めるカストルーテ王国で、王家とそれに近しい者たちだけが身につけることを許されている青い石。
 北方のこの地ではあまり知られていないはずだ。
「安心しろ。他の連中は気付いていない」
「薄汚いアケルスの民が知った風な口を!」
 隣席に座っていた男が突然叫んだかと思うと、エナンの胸ぐらを掴みあげた。
 決して小柄とはいえないエナンを軽々と放り投げ、剣を抜いて逃げ場を奪う。
 その男が装備している重量のありそうな甲冑は、どう見ても教会特別製のディバインアーマーだった。
 清廉と剛健を旨とする教会の騎士が、役目を忘れて暴挙に及んでいるのだ。
「おやめなさい! 教会騎士団(オーリアン・ナイツ)の名を貶めるような真似は許しませんよ!」
 間に割り込んだルーシェが鋭い口調で騎士を制しようとする。
「あんたは教会でも高位にいるようだな」
「こんな時に何を言っているのです」
 場違いなエナンのセリフに、プリーストは情けない顔で振り返る。
 アメジストの双眸にやや気後れしていた騎士は、視線が外れたことで勢いを取り戻し、ますます強気になった。
「お退きください、ルーシェ様! アケルセンごときを庇われては困ります!」
「俺はアケルセンではないぞ」
「貴様! 言うに事欠いて、我々と同じカスターニャだとでも騙るつもりか!」
「おやめなさいと――っ!」
 制止の声に苛立った騎士がルーシェの細い腕を掴む。
次の瞬間、プリーストは強い力で引かれ、背中から壁に叩きつけられた。
「――!」
 衝撃に束の間呼吸が止まる。
 そのまま床に崩れ落ちたルーシェは苦しそうに咳き込み始めた。
「護るべき人間に手を挙げるのが騎士のやることか?」 
「黙れ!」  
 狼狽を隠しきれない騎士はエナンの皮肉に追いつめられ、手にした剣をやたらに振り回す。
 緑髪のハンターは上手くかわすが、さすがに無傷というわけにはいかなかった。
 時々走る微かな痛みに顔を顰める。
 騎士との距離が近すぎて矢を放つこともできないため、どうしても防戦一方になってしまう。
 再び逃げ場を奪われたエナンは、多少の怪我は仕方ないか、と覚悟を決めた。
 一太刀あびせなければ、この騎士も収まりがつかないだろう、と。
 まるでエナンの思考を読んだかのように、騎士が剣を振り上げる。
 外すことなど絶対にありえない。
 騎士はその一撃に渾身の力を込めた。
「死ね、アケルセン!!」
 刃が空を切る音。
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