プリーストを探すために冒険を中止するという案は、
「それじゃ本末転倒だろうが!」
と、ザスに一言で却下された。
 まったくもってそのとおりなので、ヴァリスとエナンは頷くしかない。
 まだまだヒールポーションを手放せない日々が続きそうだった。
「『ストーンバレット』!」
 相変わらず初心者向けの森でモンスターを相手に経験を積んでいる。
 魔法で作り上げた石の弾丸が、今日も絶妙なカーブを描いてキラービーに命中した。
 同じレベル1の魔法でも『ファイヤーバレット』や『ウォーターバレット』と違って複数の敵を倒せるので、ヴァリスはもっぱらこの魔法を愛用している。
「ゴブリンシャーマンのマジックミサイルが厄介ね」
「お前も同じのが使えるんだろ? 対抗策はないのかよ」
 追尾効果を持つマジックミサイルは避けるのが難しく、一行は少々苦戦を強いられていた。
「エルフは攻撃魔法しか使えないもの」
 役に立てなくてごめんね、と謝るヴァリスの顔は悔しそうだ。
 そこへお約束のようにマジックミサイルが飛んでくる。
 得意の速射でエナンが術者のゴブリンシャーマンを倒したが、それでミサイルが消えてなくなるわけではない。
 身体を痺れさせる軽い衝撃を覚悟して、ザスは歯を食いしばった。
「『レジスト』!」
 不意に響いた低めのアルト。
 唱えられた聖呪が発動し、魔法攻撃を無効化する。
「プリースト……」
 一人、マジックミサイルの効果範囲外にいたエナンがぽつりと呟いた。
柔らかい光沢を放つライトグレーの髪。本物のそれよりも美しいアメジストの瞳。
優しい表情を浮かべる綺麗な顔立ちとおっとりした物腰は、はっきり言って先日会ったハンターの女の子より遙かに女性らしい。
 だが、彼らが外見に騙されたのは、ほんの数瞬だった。
 なぜならその青年が「本当にプリーストか!?」と疑いたくなる行動をとったからである。
「あ、殴った! ――うわ、また! 痛そ~」
 彼の目前に現れたモンスターは容赦なく殴られていた。ウォーハンマーと呼ばれる鋼鉄製の槌が幾度も振り下ろされる。
 使い手が非力なためか、戦いはなかなか終わらない。
「なんか……見てるこっちが疲れてくるわね」
 剣ならば2回も切れば勝負がつくモンスター。それを恐らく5回は殴った。
「ねえ、プリーストって殺しはやっちゃいけないんじゃないの?」
 ようやく敵を倒した聖職者に、ヴァリスはそっと声をかける。
 自分が「戦えるプリースト」を希望していたことは記憶の彼方に置き忘れ、その態度はやや引き気味ですらある。
 辺りに光りを振りまくような綺麗系プリーストはおっとりとその疑問に答えた。
「刃物を扱うことは禁じられていますけれど、殺生は別に……。でないと気付かずに踏んだアリのせいで、聖呪が使えなくなったりしたら困るでしょう?」
 殺意の有無が問題になるのではないかと思ったが、誰もそこに言及しなかった。
 抱いていたプリーストのイメージが見事に崩壊していく――見た目はかなりのレベルでクリアしていたにせよ……。
「まあ、なんにしろ助かった」
 ザスの礼を皮切りに、なんとなく自己紹介をする一行。
 森の中。周囲をモンスターに囲まれながら、場違いな和やかさが発生する。
 その元凶たる綺麗なお兄さんは優しい表情を微動だに変えず、
「私はルーシェ。ご覧のとおりプリーストです」
 やはりおっとりと名乗った。
 サークレットの青い石がきらりと輝いた。
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