永遠に主を失った木こりの家は、どこかうら寂しい感じがした。
横になると余計に辛いからとルーシェは寝台を断り、壁に寄り掛かっている。
咳はまだ治まらず、苦しそうに喘いでいた。
ザスは黙り込んだまま、剣の手入れをしている。
エナンは木こりの遺した袋から何やら道具を取り出すと、地下室からの道を使って裏庭へ出て行った。
「あ~あ、砂まみれだわ。お風呂に入りたいわねぇ」
気詰まりな雰囲気に耐え兼ねたヴァリスは殊更明るく言ってみたが、誰からも賛同は得られなかった。
――ちょっとくらい喋りなさいよ、ザス!
いつも陽気なファイターは暗い表情で黙り込んだまま、一言も発することなく剣を置くと、盾を手に取り同じように磨き始める。
取り付く島のない様子にヴァリスはこっそり溜息を吐くと、木箱に腰掛けた。
乱れ放題の蒼い髪を手櫛で整え、解けかかったビーズ飾りを着け直す。
二人の間に流れる硬い空気に、より一層居心地の悪さを感じていたところへ、エナンが銀製のカップを片手にようやく戻って来た。
湯気の立つカップからは淡い花の香が漂っている。
セージにヒソップ、ナイトシェード、カモミール、それに蜂蜜が少々。精神疲労と喉の痛みを緩和するハーブティーだ。
「少しは楽になるはずだ」
緑髪のハンターは無表情にそう言うと、カップをルーシェに手渡した。
「ありがとうございます」
掠れた声での礼に頷きで返し、火打ち石を木こりの袋へ戻す。
それを見ていたエルフが、
「あら、言ってくれれば火くらい起こしたのに」
と、魔法を使う時の仕草をしてみせた。
エナンはそれに一瞥を送り、肩をすくめる。
「あんたも飲んでおくといい。粥も作ってある」
扉をくぐりしなにヴァリスを誘うと、また薄暗い地下室に消えていく。
野宿になった際の食事が質素ではあっても粗末にならないのは、偏にこのハンターのおかげであった。
野草や木の実に詳しく、獣の獲り方にも精通している。
水場を探し出すのも、風の向きを読んで安全な寝場所を確保してくれるのも彼だった。
ザスは力仕事に向いているし、ヴァリスも魔法を使って多少の手伝いはできたが、もしこのパーティが彼ら二人だけであったら今頃どうなっていただろうか?
そう考えるだけでも恐ろしい。
エルフの森を出たばかりの時には、一人で冒険するつもりでいた。あまりの無謀さに今更ながら背筋の凍る思いだ。
「エナンがいてくれて本当に助かったわ――ザス、食事にしましょう」
ヴァリスは立ち上がると、ザスの袖を引いた。
「ザスったら聞いてるの!!」と強めに呼びかけて、ようやく相手の反応を得る。
「なんか言ったか、ヴァリス?」
「食事にしましょうって言ったのよ。エナンがお粥を作ってくれたの」
「そうか。あいつにはいつも世話をかけるな」
横になると余計に辛いからとルーシェは寝台を断り、壁に寄り掛かっている。
咳はまだ治まらず、苦しそうに喘いでいた。
ザスは黙り込んだまま、剣の手入れをしている。
エナンは木こりの遺した袋から何やら道具を取り出すと、地下室からの道を使って裏庭へ出て行った。
「あ~あ、砂まみれだわ。お風呂に入りたいわねぇ」
気詰まりな雰囲気に耐え兼ねたヴァリスは殊更明るく言ってみたが、誰からも賛同は得られなかった。
――ちょっとくらい喋りなさいよ、ザス!
いつも陽気なファイターは暗い表情で黙り込んだまま、一言も発することなく剣を置くと、盾を手に取り同じように磨き始める。
取り付く島のない様子にヴァリスはこっそり溜息を吐くと、木箱に腰掛けた。
乱れ放題の蒼い髪を手櫛で整え、解けかかったビーズ飾りを着け直す。
二人の間に流れる硬い空気に、より一層居心地の悪さを感じていたところへ、エナンが銀製のカップを片手にようやく戻って来た。
湯気の立つカップからは淡い花の香が漂っている。
セージにヒソップ、ナイトシェード、カモミール、それに蜂蜜が少々。精神疲労と喉の痛みを緩和するハーブティーだ。
「少しは楽になるはずだ」
緑髪のハンターは無表情にそう言うと、カップをルーシェに手渡した。
「ありがとうございます」
掠れた声での礼に頷きで返し、火打ち石を木こりの袋へ戻す。
それを見ていたエルフが、
「あら、言ってくれれば火くらい起こしたのに」
と、魔法を使う時の仕草をしてみせた。
エナンはそれに一瞥を送り、肩をすくめる。
「あんたも飲んでおくといい。粥も作ってある」
扉をくぐりしなにヴァリスを誘うと、また薄暗い地下室に消えていく。
野宿になった際の食事が質素ではあっても粗末にならないのは、偏にこのハンターのおかげであった。
野草や木の実に詳しく、獣の獲り方にも精通している。
水場を探し出すのも、風の向きを読んで安全な寝場所を確保してくれるのも彼だった。
ザスは力仕事に向いているし、ヴァリスも魔法を使って多少の手伝いはできたが、もしこのパーティが彼ら二人だけであったら今頃どうなっていただろうか?
そう考えるだけでも恐ろしい。
エルフの森を出たばかりの時には、一人で冒険するつもりでいた。あまりの無謀さに今更ながら背筋の凍る思いだ。
「エナンがいてくれて本当に助かったわ――ザス、食事にしましょう」
ヴァリスは立ち上がると、ザスの袖を引いた。
「ザスったら聞いてるの!!」と強めに呼びかけて、ようやく相手の反応を得る。
「なんか言ったか、ヴァリス?」
「食事にしましょうって言ったのよ。エナンがお粥を作ってくれたの」
「そうか。あいつにはいつも世話をかけるな」
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