「お前ら、正気か?」
 開口一番、酒場のマスターはそう言った。
 覚悟はしていたものの、さすがに堪えるセリフである。
 エナンは相変わらず無表情だったので判らないが、ヴァリスは明らかに冷や汗をかいていた。
「もちろんよ~。心当たりないかしら?」
 殊更朗らかに問うあたり、ほとんど自棄(やけ)なのだろう。
「あるわけないだろ。プリーストってのは殺生を禁じられてる。そのおかげで聖呪が使えるわけだ」
 案の定、マスターからは当然のことを諭された。そんなの初等教育前の子どもでも知っている。
「教会を離れてうろうろしてるキャリアもいないわけじゃないが、大抵そういうのは配属が変わって別の教会へ移動中とか、お偉いさんの所へ使いに走ってるとかなんだぜ」
「やっぱり無理……かしら?」
「ロストで手を打ったほうが無難だろうな」
 マスターの言葉にエルフの青年は溜息をつく。
「どうする、エナン?」
「ロストを仲間にするくらいなら、いないほうがマシだ」
「おいおい、物騒なセリフは心の中にしまっといてくれよ。ここにもロストの一人や二人いるんだぜ。聞かれても知らないからな」
 巻き添えは御免とばかりに、マスターは奥へと引っ込んだ。
「ダメだったろ?」
 少し離れたテーブルで酒を飲んでいたザスは、奮闘むなしく帰還した勇者を苦笑で迎える。彼は最初から期待していなかったので落胆もない。
「欠かせないアイテムとはいえ、ヒールポーションって無駄遣いしてる気がして我慢ならないのよね」
「いい加減に諦めろよ」
 ヒールポーションは決して高価なものではない。むしろ安いくらいだ。
 たびたびお世話になるため購入頻度は高いが、ヴァリスが言うほど無駄遣いにはなっていない。
「『塵も積もれば』って知らないの? 今まで払ったポーション代でもっといい武器が買えたのよ?」
 この大陸には、鑑定屋はいるが武器屋はいない。装備品の類は冒険者たちが遺跡から採ってきた物を持ち寄り、オークションで取り引きされる仕組みになっている。
 つまるところ、お金がなければ欲しい物も手に入らないのだ。
 ザスは考えを改めざるを得なかった。
 実はつい先日100ジェルほど足りなくて、フレイムソードを逃してしまったのだ。
 なんでも刀剣コレクターだとかいう羽振りの良い男がいて、オークション開始早々、いきなり高値を付けたのである。
 ヒールポーション10個分。それが明暗を分けるハメになろうとは!
「ダメもとで探してみるか」
 呟いたザスは早速行動を開始すべく、ガタンと席を立った。 
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