「滝の次は沼かよ」
 淀んだ水の気配に辟易した様子で、ザスはぼやいた。
 体の中まで黴が生えそうな感じである。
「マズそうな蟹はいるし……」
 スリリングな滝渡りを体当たりで邪魔してくる蟹――ジャイアントクラブは、さぞかし身がつまっているだろうと思わせる体格を誇っていたが、青色をした外郭は食欲をそそるものではなかった。
「魚はぴょんぴょん跳ねやがる」
「おかげで攻撃が当たりにくいのよね……って、もう! ただでさえジメジメして鬱陶しいのに、あんたまでジメジメしないでよ!」
 ゴブリンが築き上げたバリケードを「しゃらくさい!」と一言のもとに壊滅せしめたヴァリスは、火系魔法を愛用しはじめていた。
 まさかそれに触発されたわけでもないだろうが、言動が少々過激になっている。
「すまんな。しばらく復活できねえかも……」
 ザスの顔は三日の断食とタメを張れるくらい、げっそりしていた。
「高所恐怖症のうえに水恐怖症。今までよく冒険してこられましたね」
「え? そうだったの?」
「あーもー。お前は黙ってろ、ルーシェ」
 ぶよぶよの苔の絨毯を踏んで、一行は進む。途切れ途切れの浮き橋は、右に左に大きく揺れ、一秒たりとも止まることを許さない。
 誰かが水に落ちてしまうと、残りの者も引きずられて同じ運命を辿るハメになった。
「レビテート……レビテートが使えたら!」
 ずぶ濡れになりながら固く拳を握りしめ、ヴァリスは浮遊効果を与える魔法を切望する。
 そんな彼にルーシェがおっとりと厳しい現実を告げた。
「あれはフェアリー特有の魔法ですからねぇ」
 エルフは己の体内を流れる血で、プリーストは神に祈ることで魔法を発動させる。フェアリーの魔法は精霊を使役して行う。まったく系統が異なるため、魔力が充分にあったとしても他の魔法は使えないのだ。
「あなた、綺麗な顔して結構イイ性格よね。ここは『そうですね』って相づちを打ってくれればいいのよ?」
 ホホホホホと笑い声までオネェ調のヴァリス。
「これは気付かずに申し訳ないことを。以後、(憶えていたら)改めますね」
 にっこりと笑み交わす二人に不穏なものを感じるのは、気のせいだろうか。
 だが、さすがのヴァリスも、ルーシェの怪しげな心中独語までは察知できなかったようだ。
「おい、家らしきモンがあるぞ」
 沼地を抜けると草原が広がっていた。そこにレンガ造りの建物が一件、ぽつんと寂れた様子もなく存在している。
 信じられないことだが、こんなモンスターだらけの森にも住人がいるらしい。
「誰が住んでるのかしら?」
「訪ねてみましょうか。森のことも何か聞けるかもしれませんよ」 
「そうね。でも、とりあえずは凶悪面の熊どもを倒しましょう」
 彼らの背後では、キラーベアが茶色の巨体を武器に迫りつつあった。
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