キィィィィィィン――

 思わぬ金属音に驚いたのはエナンばかりではなかった。
 騎士の剣はウォーハンマーの柄に受け止められ、唖然としているうちに半ほどからポキリと折れる。
 切っ先が足元をかすめてエナンはひやりとしたが、幸いにも刺さらずに済んだ。
「意外と丈夫なんだな、あんた。安心した」
 か弱い貴婦人よろしく気絶するのではないかと危惧していただけに、その言葉は本気だ。
 綺麗系プリーストは苦笑して、よく言われます、とだけ返した。
 手を伸ばして、蒼白になった騎士から折れた剣を回収する。
 それをエナンに渡すと、自身の得物を巧みに操って、騎士を床に跪かせた。
「ここが双国の緩衝地帯であることは分かっていますね」
「……はい」
「私の警告を無視したこと、許可なく私に触れたこと、覚えていないなどとは言いませんね」
「……はい」
「今すぐ主神オーリアンの御前に位を返上することを述べなさい。私の全ての権限において、貴方の騎士位を剥奪いたします」
 死刑宣告にも等しい言葉を、おっとりと告げる。
 たおやかな女性のように細い身体は聖呪を使った時と同様の、白い光を帯びていた。
 金色の呪陣が展開し、白光がさらに輝きを増す。
「名と生まれとを述べなさい。生まれ持つ星の日を告げなさい」
 騎士は終始無言だった。逃れようとはしないが、大人しく従う素振りもない。
「オーリアン、グレシャス、ハーディス――偉大なる三神の御名において、この誓約が無効なりしことを宣言する」
 周囲の人々がはらはらと見つめるなか、ルーシェの呪は微かな残滓を残して消えた。
「失敗したのか?」
 躊躇いもせずにエナンは問いかける。
「いいえ。この呪は声なき声も拾います」
 自分の内の何かが消失したことに気付いたのだろう。
 騎士はがっくりと項垂れていた。その首から信徒であり騎士の証である飾りが音をたてて滑り落ちる。
 中央に剣と百合が浮き彫りにされ、それを紅玉と黒曜石、そして金剛石とが囲んでいる。
 ルーシェの胸元にも同じ物があった。騎士の飾りよりも遙かにグレードが高い。
「あんたは一体何者だ?」
 王族に縁の人間にして、教会でもかなりの高位にある者。
 胡散くさい連中が多い冒険者のなかでも、ひときわ怪しい。
 興味と不審のないまぜになったエナンの視線を笑顔で受け止めて、
「私も知りたいですね。カスターニャでもアケルセンでもない、貴方について」
 返す刀はずいぶん厳しいものだった。
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